I can tetsu do
豊田市美術館のエントランスの一角には、1/400スケールの建築模型がひっそりと展示されている。それは普段、アクリルケースに護られ、開館当初からずっと同じ場所に置かれている。小島はこの建築模型に目をつけた。
美術館の東側を、館に沿って走る「愛知環状鉄道」。作家はこの鉄道を建築模型の中に走らせてみたいと考えた。
こうして、“愛知環状鉄道”ならぬ“豊田市美術館環状鉄道”が完成した。
実際の鉄道がすぐ側を走る美術館の中でこの作品を観ていると、まるで自分が入れ子構造の空間の中に入り込んだような、不思議な感覚を味わうことになる。それはもしかすると、つい先ほど自分が乗っていたかもしれない電車なのだ。
会場入口のエントランスに設置されたこの作品は、入場待ちする子どもたちにむけた格好のイントロダクションとなった。
Shadow train
会場入口のトンネルを潜ると、まず最初に出会うのが 《Shadow train》だ。展示室の四方の壁を、汽車のシルエットが大きくなったり小さくなったりしながら、ゆっくり走っている。
仕掛けは、中央に置かれた展示台の上にある。そこでは、天井から吊られた小さな電球の周りを、真鍮素材の可愛い汽車が円を描いて動いている。しかしよく見ると、汽車は動いているが、走ってはいない。汽車をのせた円盤台がゆっくり回転しているのだ。
影の列車が走る様は、メルヘン調でありながら、死を暗示する走馬灯のようでもある。小島久弥の Shadow train は、「あっちとこっち」の狭間をぐるぐると巡りつづける。
Train
チクタクチクタク…。 振り子時計の時を刻む音が響く、薄暗い展示室。
部屋の中央に、“満月”を彷彿とさせる丸い光源が浮かんでいる。
黒いカーペットが敷かれた床には鉄道模型の線路がひろがり、様々なオブジェがその周りに配置されている。振り子時計、豆本、地球儀、キノコ、ゴリラ、クジラ、パラパラマンガの装置、万華鏡のトンネル、プラズマ球、ゴジラ、薬莢、ブランコに乗った骸骨、花輪、アクリル球、緑に光る電球、ドリンキングバード、ダビデ像の顔、両の手…。ターンテーブルに置かれた灯光が、灯台のようにゆっくりと回転し、これらのオブジェの影を壁面に映し出している。
線路はあっても、列車はどこにも見当たらない。
長い線路をたどっていくと、壁にぶつかり行き止まりのようだ。
しばらくすると、アナウンスが流れ、展示室の壁に映像が映し出される。ここで上映される映像は、観る者が列車最前方の運転席に座って架空の世界を旅する、というものだ。
映像に登場する景色を見れば、すぐにこの画像が、「今まさに自分が居る」展示室で撮影されたものであることが判るだろう。小島はこの部屋にひろがる鉄道模型の線路にカメラカー(模型列車の先頭にカメラを搭載したもの)を走らせて映像を撮影、編集したのである。
自分が小人になって様々なオブジェの間に分け入るようなスリリングなカメラアングル、闇と光の効果、小気味よい規則的な線路音の反復は、子どもたちを惹きつけてやまない。
この映像のハイライトは、列車がアーチ型のトンネルを通過した瞬間に訪れる。画像が投影されている壁の下方に突然小さなトンネルが出現して、われわれがいる実世界に向かって列車が滑り出してくるのだ。その列車は、緩やかな弧を描きながら床を進み、再び壁に出現するトンネルのなかに消えていく。「こちら側」の空間に現れた不思議な列車は、巧みな映像プロジェクションによって生み出された虚像に他ならない。しかし、それが虚像であるとはいえ、目の前に突然列車が出現するという予想を超えた事態を、観客はすんなりと呑み込めずにいるだろう。
トンネルを抜けると、運転席から眺める視座を保持しつつ、列車は再び夢のような世界を旅していく。観る者を乗せた列車は、宇宙、ファンタジー、虚と実、生と死、原爆、戦争…などのイメージを喚起させながら、謎を謎として保留にしたまま、光の中に消失していく。