Kojima Hisaya
Portfolio

作家の母親が取っておいてくれた子どもの頃の絵、それを元に現在の自分が世界を描き広げていくドローイングシリーズ「Thanks mom! 自画自参」。過去と現在が相互作用を起こしながらつながり、新たな1枚として成立するよう描かれている。

つづくまさとし・豊田市民芸館館長
 小島久弥は子どもの頃に得た忘れられない出来事や経験を、作品づくりのエッセンスに取り入れている。それはこれまで小島が自作について綴った幾つかのステイトメントのなかで、幼少期の記憶と自身の作品との関係について記していることからも明らかだろう。驚くことに、大人になった小島が、子どもだった過去の自分と実際に手を組んで作品をつくりあげてしまうこともある。それが作品として大きく花開いたのが“Thanks mom!・自画自参” シリーズだ。

つづくまさとし・豊田市民芸館館長
 小島久弥は子どもの頃に得た忘れられない出来事や経験を、作品づくりのエッセンスに取り入れている。それはこれまで小島が自作について綴った幾つかのステイトメントのなかで、幼少期の記憶と自身の作品との関係について記していることからも明らかだろう。驚くことに、大人になった小島が、子どもだった過去の自分と実際に手を組んで作品をつくりあげてしまうこともある。それが作品として大きく花開いたのが“Thanks mom!・自画自参” シリーズだ。小島の母親が保管していた彼の幼少期の絵を、現在の小島が周囲に拡張して描き足す。ひとつの絵の中で過去の自分と現在の自分が出会うようにして新たな絵画をつくりあげるのである。作家は母親が彼の幼少期の絵を大切に残してくれていたことに深く感謝しつつ、50歳の節目からこの連作をスタートさせた。   “Thanks mom!” シリーズは、一見すると小島の立体や映像を用いた作品とは趣を異にする。が、ここでも小島が長年、制作のテーマに掲げてきた「Critical Point(クリティカルポイント)=臨界点」が表現されているとみてよいだろう。そもそも「臨界点」とは物質が状態変化を起こす境目のこと。小島はこうした物質の変わり目のみならず、虚と実、生と死、過去と現在といった異なる概念があたかも同時に存在するような、“不二”の瞬間との出会いを求めて制作を展開してきた。“Thanks mom!” シリーズではまさに過去と現在が混じり合い往還しているような状態を提示し、超現実的な「新たな過去(Neo Past)」ともいうべきイメージを生み出したのである。   私たちは皆、子どもの頃の記憶や経験を土台にして想像力を逞しくし、大人になっていく。“Thanks mom!” シリーズを前にすると「これからの世界をどう拓くかは僕たち次第だよ」という作家の声が聞こえてくるような気がした。

小島 久弥
 僕の母は不思議なこだわりのある人だ。
 僕が小学生の頃、テスト用紙はワラ半紙で、ガリ版刷りが定番だった。何を思ったか、母はどこからかガリ版の道具を調達し、僕のためにたった一枚のテスト用紙を刷っていた。テストの内容よりも、そのテスト用紙がリアルなものであることにこだわっていのだ。そんな一風変わっていた母は、僕が幼少期に描いた絵を、丁寧に(と言っても二つ折りにして)ほぼすべて取っておいてくれていた。

小島 久弥
 僕の母は不思議なこだわりのある人だ。
 僕が小学生の頃、テスト用紙はワラ半紙で、ガリ版刷りが定番だった。何を思ったか、母はどこからかガリ版の道具を調達し、僕のためにたった一枚のテスト用紙を刷っていた。テストの内容よりも、そのテスト用紙がリアルなものであることにこだわっていたのだ。そんな一風変わっていた母は、僕が幼少期に描いた絵を、丁寧に(と言っても二つ折りにして)ほぼすべて取っておいてくれていた。
 僕は、絵を描くのが好きな子どもだった。将来は「ベレー帽を被って、スモックを着て、オーバル型のパレットを持った絵描きさん」になりたいと思っていた。その後、大学時代に現代美術にうちのめされることになるのだが…。30代のある日、母がとっておいてくれた絵を、まとめて見た。一枚一枚、それぞれの絵を描いた時のことを思い出し、時間が経つのも忘れて。その時、床にあぐらをかいていたので、全部見終わった頃には太ももから下の感覚が全く無くなっていた。
 50歳になってから始めたこのシリーズは、これまで絵を残してくれていた母親への感謝を込めて “Thanks mom!・自画自参” と名づけ、今も続けている。かつて子どもの頃に描いた自分の絵に今の自分が参加するから、自画自賛ならぬ 「自画自参」 である。
 これらは主に、学校の図画工作の授業やお絵描き教室で描いた絵だ。当時の先生の 「画用紙からはみ出すくらい大きく描きなさい。画用紙の白いところは残さないように描きなさい。」 との教えを守り、いつも力を振り絞って必死でバックを塗り潰していた。おかげで自画自参しやすい絵になったという訳だ。
 制作している時、子どもの頃の自分が現れ 「もっとこうすれば?」 とか 「なかなかいいんじゃない」 などと言ってくれることがある。まさに過去の自分とのコラボレーションだ。このシリーズでも、長年テーマにしてきた 「Critical Point=臨界点」 が関係しているのだと思う。